赤井都『即興集@湖ノ底カラ降ッテキタモノ』

puhipuhi2004-11-15



プロの方々の作品はさておき、文学フリマで色々買った本のうち、アマチュアの人の小説で一番心に残ったのがこれだった。拙豚は作者と面識がないので、どんな人かは全然知らない。もしかしたらあのとき売り子をやってた人かもしれない。
フリマに出品された作品をひとわたり読んで、ちょっと閉口したのは、自らに裡に閉じ籠もっているような作品があまりに多いことだ。もちろんそういう作品については、こちらから能動的に「読み」を行い、その殻をこじ開けて見るという楽しみはないこともない。しかし、小説というものは本来読者に向けて語りかけることによって成り立つもののはずだ。その点で「閉じた」作品はやはり物足らない。
その点、この本『即興集』の中の小品たちは、自然に読者に向かって開かれている。まるで物語がどこからか自然にぽろぽろとこぼれおちてきているようだ。読者は思わず手を差し伸べ、掌にそれを受けとめたくなる。作者まえがきによると、某匿名掲示板(2ちゃんかな?)で募集された三題話に応える形でこれらの小品は書き上げられたのだそうだ。素晴らしい……
なかでも拙豚が好きなのはツチノコのハサさんとアツコさんのシリーズだ。たとえばこんなの。

 私はツチノコのハサさんが好きだ。返事も聞かぬうちにハサさんの部屋にあがりこんで、勝手に水まくらの交換をしている。
 夏風邪をひいて箱のようなツチノコ独特の寝床に横たわっているハサさんは、少し籠った声で、
「恥ずかしい」
 と云った。
「なにがですか」
 手を止めて覗き込むと、
「この箱です。ああ」
 と、同じ籠った声で云う。私は新しい水まくらをハサさんの額に当てる。紺色の陰がハサさんの暑い瞼に落ちる。
「ああ、人間界でずっと生活しているというのに、私は蒲団がだめなんですよ。布の中では寝つけないんです。アツコさんに、私の箱を見られてしまいました。(後略)  

                                 (p.15「紺」「箱」「蒲団」)

どうです。続きが読みたいでしょう(笑)。作者のサイト(http://miyako.cool.ne.jp/)に行けば、たぶん入手方法は分かると思います。