新年早々うれしいニュース


 

新年早々、うれしいニュースが流れてきた。あの伝説の彼方に消えたと思われた工藤幸雄訳『サラゴサ手稿』がついに出版されるという(情報ソースは昨年末の「読んでいいとも年末特別篇」での東京創元社の発表)。

「今二十一世紀に入って最初の訳書がフランス語による怪異物語、ヤン・ポトツキ『サラゴサ手稿』の完本(東京創元社、訳稿完成、出版時期未定)」と書かれた工藤幸雄の『ぼくの翻訳人生』が出たのが2004年12月20日。それから二十年になんなんとする歳月が流れている。

もっとも怪奇幻想異端の文学といった分野では二十年は例外的に長い期間では必ずしもない。鮮度が命のベストセラーとはタイムスケールが違う。二十年待つ読者層が存在する。

それにしてもなぜ突然降ってわいたように工藤訳ヴァージョンが復活したのだろうか。

1. I文庫版が増刷を重ねているのを見て羨ましく思った。
2. I文庫版を読んで「やはりサラゴサは工藤訳でなくては」と決意を新たにした。
3.工藤版はI文庫版とはかなり違ったヴァージョンなので出す価値はあると思った。
4.もらった原稿を放置するのは平気だが他社が出そうとするとあせる社風であった。
5.遺族に「出さないんなら訳稿を返してくれ」と言われたが返したくなかった。
6.工藤幸雄の霊が夜な夜な枕辺に出て恨めしい顔をした。
7.大掃除したら紛失していた訳稿が出てきた。
8.自社にそんな企画が存在していたこと自体を忘れていた。

われながらイヤになるくらいの下種のかんぐりだが、ともあれ出版の決断をした版元に最大限の敬意を表したいと思う。