うたう百物語

うたう百物語 Strange Short Songs (幽ブックス)

三十一の文字は、力をも入れずしてあめつちを動かすと、むかし誰かが言ったそうな。その後二世紀ほどして、カバラの秘法が『ゾーハル』として集大成された。それとこれとが関係あるのかは知らない。幸い『ゾーハル』の邦訳がこんど出たから、買って勉強してみようと思う。

この本には、九十九の短歌に触発されて生まれたという九十九の掌編がおさめられている。なるほど、あめつちをも動かすというのは嘘ではなかった。どの物語もどの物語も、ふだん動かないところ、動くはずもないところ、動いてはいけないところが動いている。
でも、それを不思議がろうとしても、「え？　どこがおかしいの？　あたりまえでしょ？」みたいな静かな微笑みが返ってくるばかりだ。これはいったいなんだというのだろう。その答えは百番目の掌編にあるのだろうか。