Casket de moire, / Quéquette d'ivoire,


きょうは銀座の画廊まで行ってきた。とある閨秀同性愛詩人にちなんだ、すみれ色の小さな容器(Casket)が450箱限定で売りだされると聞いて。

余ガ容器ヲ註文シタノデ、御身ハ気ニ病ンデイルト云ウノダネ。然シ、若し容器ガ既ニ出来上ッテイルノナラ、御身ハ気にナリモシヨウガ、未ダ作クラセルトイウ話シカシテイナイ現在、只註文スルトイウ行為ダケデ、御身ノ神経ガ刺激サレ、魂ガ苦痛ノ感覚ヲ告知サレルトハ、余ノ小脳ノ狭イ容積デハ、トテモ考エラレナイノダヨ。ソンナコトヲシタラ変ニ思ワレル、ト御身ハ云ウノダネ。ドウモソコガ余ニハ理解出来ナイネ。(稲垣足穂「ヴァニラとマニラ」)


首尾よく容器(カスケット)を手に入れて、芳名帳に記帳していると画廊主とおぼしき女性が声をかけてきた。
「ここはどこでお知りになりました?」
「いや、友だちのツイッターで見て。あのう、少し前にインド人みたいな人が来ませんでしたか」
「ああ、いんどじん!」
「そう、いんどじん!」
「いんどじん! いんどじん!」

銀座の画廊というのは浮世と隔絶した別乾坤だ。星の数ほどに散らばるかの地の画廊では、きっと毎日のようにこんな不思議な会話が交わされているに違いない。



問題の菫色の容器(カスケット)