フリッツ・フォン・ヘルツマノフスキー-オルランド(以下FHO)といえば、弊ブログを見ておられる方々には説明する必要もないと思いますが、『皇帝に捧げる乳歯』という怪作を書いたオーストリアの作家・画家であります。かって池内紀訳で牧神社から出た本は、現在入手困難らしいので、どこかの文庫ででも出ることを希望いたします。幻想文学方面での評価は別にしても、いわゆるハプスブルク神話を一身に体現する存在として、少なくとも自分にとっては避けて通れない人です。
あるいは、稲生平太郎の『聖別された肉体』にも端役で登場するので、そちらでご存知の方もいるかもしれません。ちょっと横道にそれますが、 この『聖別された肉体』は、オカルティズムにもナチズムにもさして興味のない拙豚さえもが「うおお」と唸りまくった名著であります。まだ読んでない人にはぜひ一読をお勧めします。
そのFHOは同い年の画家アルフレート・クビーンと終生変わらぬ親友どうしでありました。FHO全集の第七巻はまるまる一冊、450ページくらいがクビーンとの往復書簡にあてられていて、おかげでわれわれは二人の50年にわたる交友をつぶさに知ることができます。書簡に付されたミヒャエル・クラインの注も、『子不語の夢』の村上裕徳氏に負けるとも劣らぬ超異様な充実を誇っていて、まあどこの国にもこういうマニアックな人っているもんですねえ。
で、そのクビーンが1937年、60才の誕生日にこんな自画像を描いた葉書を配ったということです。
力なくショボーンとうなだれる老人の感じがよく出ています。この頃のドイツはヒトラーが政権をとって大変なことになってましたから無理もありません。
するとFHOから手紙が来ました。例によってカバラ的地名解釈法とか能天気なことが書いてあるのですが、おしまいにこんな絵が添えられているのでした。
やはり友だちというのはいいものですね。