十蘭対猛之進

久生十蘭「従軍日記」

久生十蘭「従軍日記」

 
たいへんに貴重な本が出た。十蘭が昭和十八年に、海軍報道班員としてジャワ方面の南方に派遣されたときの日記だ。なにしろ身辺雑記の類をほとんど残さなかった十蘭のこと、素になるとどんな感じなのか、それを解く鍵は世界中にただこの一冊しかない。まさに全幻想文学ファン必読の書であるといっても過言ではあるまい。
・・・・・・と勢い込んで読んではみたが、これが実に十蘭の小説とほとんど同じ調子だ。まるで十蘭その人が十蘭の小説の中で右往左往してるみたい。いかにあの十蘭スタイルは剥がそうとしても剥がせぬ生得のものかということがつくづく分かる。こんな人は佐藤春夫に「さあさあお坊ちゃん、その窮屈なチョッキをお脱ぎ」とか言われるのですな。脱ごうにもそれはチョッキじゃなくて皮膚なのに。
玉に瑕と言えば現地の女を買いまくってるのがちといやだね。十蘭といえばやはり、しゃれたラブアフェアの一つや二つは期待したいではないか。それともこれから出てくるのかな。(いま60ページあたりを読書中)
おおおお? ボゴールのボイテンゾルグ植物園が出てきたぞ? ここは畏れ多くもかのお方の父君が園長を勤めていたところではないか! 園主さま〜(違)。十蘭vs.猛之進。両雄の対決なるか?なるか?なるか?なるか? まことに事態は予断を許さないのであった。