注文の多いヤノメ(夏コミ本製作記)

 
作者の人はこんなことを言っている。

匂やかにして貴なる藤紫は、わが最も好める色なり。
思ひ出の如くけむり、曉の光生るる空の色に、似たれば。
銀の細き線は、わが少さき心より、
萬象にふり濺く愛の雨にたぐへて、この詩歌集の表紙となしぬ。
見返へしは、燦然として、純光を放つ、
銀色の紙を撰びぬ、わが生のしかくあれと願ふ心に。
年月のうつりゆき銀色の古びゆかば、いかばかりなつかしからむ。

 
これを読んで皆さんはどう思いますか。「ああうるせえ。いつまでも言うとれ」とか内心思いませんか。

でもせっかく本をつくるのだから、なるべく作者の人の意に沿うようにしたい、ということでR陽社の担当の方としばし悩む。
まず表紙の色は、「思ひ出の如くけむり、暁の光生るる空の色に似た」る藤紫。これは難題だ。そもそもうまく想像できない。藤紫といっても藤色が勝っているのか紫色が勝っているのか、考えすぎて面倒くさくなり、結局無粋きわまる普通の紫にした。

つぎに表紙の描線は「萬象にふり濺く愛の雨にたぐへ」られる「銀の細き線」を使えとのこと。これも難しい。安っぽい紫に安っぽい銀線を乗せると目も当てられないくらい下品になるおそれがある。けっきょく銀の線の代わりに金の線にすることに。できあがりは見てみないと分からないが金の方がたぶん無難だろう。

最後に見返し。銀紙はいろいろ印刷所に見本があったが、奮発してなかでいちばん「燦然として、純光を放つ」ものにした。ああ請求書が怖い。