エディション・イレーヌの二冊

puhipuhi2004-11-13

生田耕作没後10年記念出版ということで、エディション・イレーヌから、ヘンリー・ミラーの「母、中国、そして世界の果て」と アナイス・ニンの「巴里ふたたび」が出た。古書肆マルドロール で取り扱っています。しかし、生誕100年記念とかならともかく、没後10年記念などというと、「あいつが死んでよかった! 本当によかった! もう二度と生き帰ってくれるな!」みたいなニュアンスを感じてしまうのは自分だけかしらん。

たとえば「終戦記念日」というのは戦争が終わったのを喜んでいるわけでしょう。けして戦争を讃美しているわけではありませんよね。
 
それはそうと、これらの本は新鮮な驚きだった。この人たちはこんな作品も書いていたのか! ヘンリー・ミラーとアナイス・ニンといえば、人生を存分に生きたたくましい人たちというイメージがあるが、この二冊は見事なまでに後ろ向きである。天国の母親とお話するヘンリー・ミラー。往時のパリを回顧するアナイス・ニン。一時代を担った作家たちをデカダンスの相において捉えなおすこと。たぶんこの版元は意識的にそれをやっているのだろう(同じ版元から少し前に出た「アンドレ・ブルトン美文集」にもそんな臭いを感じるから)そして、自然な日本語のリズムを持って、心にしみいるように流れる訳文がそのデカダンスをひときわ引き立てている。こういった文章はやはり前向きの文学には似合わない。