今日の散財(大泉黒石全集)

高円寺都丸書店にて。安かったので(一冊あたり1500円以下)ついつい買ってしまった。大泉黒石はなるほど日本語で本を書いてはいるが、頭の中身はまったく日本人ではない。日本人的な感情に足を掬われるということが、彼の場合あまりないようなのだ。では彼は何人なのか? お父さんがロシア人だからロシア人なのか? どうもそれもしっくりこないし、そもそもそんなのはどうでもいいことだ。肝心なのはヨーロッパ文学の伝統が自然な形で作品となって結実しているということだ。いわゆるピカレスク小説、『ラサリーリョ・デ・トルメス』とか『不運な旅人』とか『ジンプリツィスムス』とかと響きあう世界が、ナント日本を舞台に伝法な日本語で綴られているではないか。まことに珍重すべき読み物である。由良君美のおめがねに適ったというのも実によく分かる。