grand-frere, grand-frere, grand-frere, grand-frere...... grand-fre-ee-e---re...... (お兄様、お兄様、お兄様、お兄様……おにいさまアーッ……)


藤原編集室『本棚の中の骸骨』の中の 坂本浩也氏の「フランス・ミステリ通信2」にフランス語版ドグラ・マグラ ISBN:2877306453 のことが書いてあった。拙豚もつい最近、2ちゃんでこの翻訳の存在を知ってあわててAmazonに注文したところだ。
訳文の一部はファンサイトで読める。管理人のMalpaさんはここの書き込みによると東京に住んでいる人らしい。

このウェブ上の訳文を見る限りでは、(拙豚などがこういうことを言うのは実におこがましい限りではあるが)これを翻訳した人は一文一文、文意を的確に把握した上で丹念にフランス語に置き換えているようだ。相当の語学力の持ち主に違いない。拙豚も「ここはフランス語ではこういう風に言うのか〜」と大いに勉強になった。

しかし、欲を言えば、あまりに職人仕事的というか、文体がカンナをかけたように平板になってしまっているのは、もう少しなんとかならなかったものか、という気がしないでもない。フランス語というのは本来もっと表現力に富んだ言語であるはずなのだが…

適当に例をあげると、冒頭で呉一郎が目覚めた場面で

けれどもその声は、まだ声にならないうちに、咽喉の奥の方へ引き返してしまった。叫ぶたびに深まっていく静寂の恐ろしさ… (角川文庫上巻p.8)⇒
mais je ravalai mon cri au fond de ma gorge par peur du silence encore plus lugubre qui suivrait(直訳:後に続くであろう沈黙がますます陰鬱になるのを恐れて、私は叫び声を咽喉の奥に飲み込んだ) 

あるいは

「……イヤラッサナア……マアホンニ……タマガッタダ……トッケムナカア……ザウタンノゴト……イヒヒヒヒヒ……」(同p.22)⇒
≪ c'est pas vrai...... vraiment...... j'ai eu peur...... tu rigoles...... hi hi hi hi hi hi hi ≫.

最初の例では、作者の言わんとする事を論理で凝縮し、洗練された文体に落とし込む手口が実に実にフランス語的ではある。しかしこういう風に洗練させてしまうと、もはや夢野久作ではない、というか勝手に二文を一文にしないでほしい(笑)。二番目の例は、ここだけ読むと、中学生が友達と電話で話しているようもである。あと、「トッケムナカア」が抜けているのでは。