ジョン・コリアは難しい6(地底のデブデブ帝国の巻)

 

西脇順三郎全詩引喩集成

西脇順三郎全詩引喩集成

 
『旅人帰らず(No Traveller Returns)』は、オーブリーの本と同年の1931年に発表された60ページくらいの中篇である。ある種の人々には(というか、『西脇順三郎全詩引喩集成』を舐めるように読むある種の西脇マニアには)、詩集『旅人かへらず』のタイトルの典拠として知られていると思う。 西脇自身もなにかのエッセイで題はコリアから拝借した旨を書いていた。

ウィルキンソン教授は研究に余念のない科学者だ。その彼がふと気がつくと、いつのまにか自宅の前に妙な建造物ができている。建物に入る人と出る人のバランスに持ち前の探究心をそそられた教授は、人間の出入りを自動的に記録する器械を作り、建物の前に据え付けた。
ところが不思議なことに、その建物に入る人はいるのに、中から出てくる人は一人もいない。しびれを切らした教授は、とうとう自らその建物に入り洞穴めいた地下室に下りていった。
たちまち教授は捕まえられすっ裸にされ、檻の中に入れられた。見るとそのだだっ広い部屋には同じような檻がずらりと並んでいて、その多くにはやはり丸裸の人間たちが閉じ込められている。
そこに異様な風体の男たちが入ってきた。みなユニフォームみたいな服を着ている。教授の正面の檻にいた丸々と太った男は、その男たちを見ると息を吸って頬をすぼませ、少しでも痩せて見られるように必死な努力をはじめたが、その甲斐もなく檻から引き立てられていった。そしてあろうことか、教授たちの目の前でオーブンに入れられ調理されてしまったのだった。
どうやら教授たちはここで彼らの食材として飼われているらしい。教授自身はいくら食べてもガリガリのままという生来の体質が幸いしてずっと檻の中にとどまっていられたが、他の者は、それを呑むと食事をせずにはおれない不思議な水のおかげで、みるみるうちに太り、そして十分に太ったところで次々に引っ立てられ調理されてゆく。
捕らえられた人たちの中には、檻で太らせる必要がなく直ちに調理されてしまうものいた。Ch*st*rt*n氏やB*ll*c氏は捕らえられて二時間もしないうちに引っ立てられていった。

ん? もしかしてこの「Ch*st*rt*n氏」とか「B*ll*c氏」とかは実在の人物なのでは? うおう先輩作家たちに対して何と大胆なことを……。コリアたんデビューして二年目なのに……。
 

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