いま訳しているもの


 

いま翻訳しているものを村上春樹風にいえば、「世界の終わりとクラシック音楽・ワンダーランド」みたいな感じになるかもしれません。荻窪の名曲喫茶「ミニヨン」にひんぱんに通っては作中に出てくる曲をリクエストし、訳をチェックし、あわせて作中の雰囲気を感じとろうとしています。

わざわざ荻窪まで行かないでも家で聞けばいいだろうと思う方もいるでしょう。しかしわが家の貧弱な装置では、オーケストラの音は歪みまくってドロドロした轟音にしか聞こえないのです。それにあまり音を大きくしたら隣近所に迷惑という気もしますし。

それはともかく、今訳している小説では、本家の村上春樹作品と同じように、「世界の終わり」と「ワンダーランド」が痛ましく分裂しています。この二作が同じテーマをあつかっているのはもちろんまったくの偶然でしょうけれど、それにしても不思議な暗合です。どちらも60年代独特のある種の雰囲気——グスタフ・ルネ・ホッケの『絶望と確信』みたいな——を察知してそれを切りとったためでしょうか。あるいは共通の祖型でもあるのでしょうか。『野生の棕櫚』? いやいやまさか。

こちらの「ワンダーランド」のほうは、その一部を来月21日の文学フリマ東京36で頒布の予定です。乞うご期待。文学フリマにはその他にもいろいろ持っていきます。