恐怖の到来

 『恐怖 アーサー・マッケン傑作選』を贈っていただきました。どうもありがとうございます。
 

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 さっそくぱらぱらとめくってみると、のっけから

「よく来られたね、クラーク。ほんとによかった。じつは、時間のつごうがつくかどうか、心配してたんだが。」
「仕事は、四、五日分、まとめてかたづけて来た。いまたいして忙しくないんだ。ところでレイモンド、ほんとに心配ないのかね? ぜったいにだいじょうぶなのか?」

 
 といった平井調の会話にひきこまれてしまう。いや、今書き写していて気づいたのだけれども、こんなふうなリズムとテンポをもった言葉のやりとりは、都筑道夫の登場人物が交わしてもおかしくない。するとこれが江戸前というものなのか。違うかもしれないけれど、「悠揚迫らざる」という言葉をちょっと使いたくなるではないか。そしてこのまま恐ろしい世界になだれこんでいくのだからこたえられない。もしかすると平井呈一訳でマッケンを読めるわれわれはイギリスの人たちよりラッキーなのかもしれない。ちょうどフランスの人がボードレール訳でポーを読めるように。