悪魔はここに

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 Re-Clam第六号が到着した。発行者三門優祐氏のエディトリアル・ワークはますます冴えわたり、隅々まで読んで楽しい雑誌になっている。これほどマニアックでありながら、同人誌特有の閉塞感を感じさせず、「ミステリっていいもんだな」と素直に思わせるのは、氏の人脈と人徳のたまものかもしれない。言うては何だが、商業誌でも、ここまで面白い雑誌はそうそうあるものではない。

 なかでも一番面白かったのは新保博久氏の「死火山に鞭打つ」だった。これはすぐ前にある松坂健氏の記事の註解あるいは補足として書かれたものだが、単にそんなもので終わるはずもなくて、例によって教授の独擅場である博引傍証がくりひろげられる。水上勉が推理小説として発表した「死火山系」を取りあげて、これでもかこれでもかとばかりに詮索のかぎりをつくしているのだ。「誰にだって失敗作はあるんだから、何もそこまで言わんでいいのに」と水上勉が可哀相になってくるくらいに、教授の弾劾は苛斂誅求をきわめる。だが読み物としては抜群に面白い。

 この本が新刊で出た時には田中潤司も通常の倍の紙数を費やして叩いていたという。よほどミステリ愛好家の逆鱗に触れるものがあるのだろう。だが「発酵人間」なんかと同じで、ここまでけなされると逆に読みたくなってくるのが人情というものだ。今は古書店で高値がついているそうだが再刊を強く希望したい。もちろんシンポ教授の解説つきで。

 同時に『シンポ教授の生活とミステリー』の続編も出ないものだろうか。『シンポ教授の詮索とイチャモン』とかそんな感じのタイトルで。もし出たら谷沢永一の『紙つぶて』のミステリー版みたいなすごい本になると思う。松坂健氏の記事 (都筑道夫の講演録) によれば、「バーナビー・ラッジ」の問題点をびしびし指摘して結末まで見破ったポーをディケンズは「悪魔のような男だ」と言ったそうだが、悪魔はここにも……
 

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この悪魔のスマイルを見よ! 中井英夫も大憤激!