早稲田古書街散策


 
ひさしぶりに高田馬場駅でおりて早稲田古書街へ行く。まずは駅前の芳林堂書店。なんと海外文学の棚がひどく縮小され、片隅に追いやられている。あたかも「銀の仮面」に出てくる老婦人のごとし。それでもきっと書店員の方の矜持があるのだろう、厳選されたいい本が並んでいる。棚に神経が配られているかどうかは一目見てわかるものだ。

モーリス・サックスの "Le Sabbat" が『魔宴』という題で刊行されているのを発見。おおついに訳出されたか! これは伝説の書で、たしか澁澤龍彦が若いころ読んで興奮したとか書いていた本である。むかし英訳で初めのほうだけ覗いたことがある。お母さんとの別れのシーンが印象に残っている。ああこの人は同性愛者になるのも無理はないなあとひしひしと感じさせるいい場面だった。旧ですぺらで一考さんともこの本を話題にしたように覚えている。
 
肝心の古書店街は半分以上の店がシャッターを閉めている。午後早いせいかもしれない。ちょうど二朗の人がシャッターを上げているのに行き合わせた。午後二時ころの話である。古書現世に入ると恰幅のいい店主が番台に座ったまま、グワーとかすごい音でイビキをかいて寝ていた。起こすのも悪いのでそっと棚を見てそっと帰った。こういうノンビリしたバンカラの雰囲気は悪くはない。いかにも早稲田という気がする。

次は丸三文庫。たしか前は別の場所にあった店だ。おそらくまだ若い店主がやっているのであろうお洒落な店で、洋書がリーズナブルな価格で並んでいるのがありがたい。ここではクーデンホーフ・カレルギーとアルベルト・サヴィニオとジャン・ポーランの本を買った。買ったとて本当は読めはせぬのである。いや待てよ、この「買ったとて本当は読めはせぬのである」というセリフは誰のセリフだったか。おうそうそう『どくとるマンボウ航海記』の中で作者がドイツの書店でヤスパースの本を買ったときのセリフだった。

あと古書ソオダ水にも寄ろうと思ったけれど、店を発見できずに断念。たぶん道を間違えたのだろう。ここもいい店なのに残念。