ディスプレイ用書籍

 神保町の北澤書店がディスプレイ用書籍に力を入れ始めたという噂を聞いてさっそく行ってみた。ここの二階に足を運ぶのは何年ぶりだろう。いや何十年ぶりかもしれない。どうもあの威圧するような雰囲気が苦手なのである。大昔には店頭平台に特価本のコーナーがあって(特価本といっても北澤のことだから五冊セット三万円とかいう値で「文句があったらヴェルサイユにいらっしゃい」みたいな感じで並んでいる)いやまあそれでもよくのぞいていたものだが、それも遠い思い出になった。

 脇の階段から二階に昇ってすぐの左右二列がいわゆるディスプレイ用書籍らしい。内容別ではなく表紙の色別に並んでいるところがいかにもという感じだ。しかしいい本がリーズナブルな値段で並んでいる。昔の平台特価本のイメージが帰ってきたようでうれしくなってしまった。一時間あまり滞在した後、結局D.H.ロレンスの訳したイタリア作家の短編集 "Little Novels of Sicily (Giovanni Varga)"だけ買って退散。ちなみに900円だった。

 それはそれとして、ディスプレイ用書籍と聞いてまっさきに思い浮かぶのはクイーン『第八の日』のラストでうやうやしく取り出される一冊の本である。いかにディスプレイといっても、だいたいの内容は知っておいたほうがいいような気がする。

 おお、それからやはりディスプレイと聞いて思い出すのは、東京堂書店の一階にあるペーパーバック・カフェのディスプレイである。向かって左側の上段の列、左から確か二冊目にサイモン・シャーマの本が鎮座しましている。買えば軽く一万円を超す本だ。要らない本を持っていって、「これと交換してください」と言いたくなるがいまだその勇気は出てこない。