文学フリマ広島の超収穫

遅くなりましたが二週間ほど前に行われた第二回文学フリマで遭遇した恐るべき本を紹介したいと思います。組糸座(くみとざ)という謎のサークルが頒布する十夜木文麦という方の三冊です。下の画像の左から「いろはなとり」「にしのことりことつきのよる/きたのことりことさくのよる」「虚花幻燈占唄詰合(うろはなうつろいうらうたつめあひ)」。いずれも文庫本サイズの瀟洒な本です。

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三冊いずれも傑作ですが中でもすごいのは「いろはなとり」です。無断転載を禁止する旨の断り書きが本に記されているので残念ながら引用はできません。でも塚本邦雄の瞬間小説集を思い浮かべていただければ、だいたいの雰囲気は想像できると思います。

ここにはおのおの百四十字からなる掌篇が四十七収められています。各々の掌篇には「いりす」「ろーずまり」「はまなす」というふうに花の名がいろは順に付けられています。そればかりではありません。最初の掌篇「いりす」の文章は「い」ではじまり「ろ」で終わります。次の掌篇「ろーずまり」の文章は「ろ」ではじまり「は」で終わります……というように瞬間小説がしりとりをしているのです。四十七番目、つまり最後の掌篇「すいせん」は「す」ではじまり「い」で終わります(ちなみに「さようなら恋」という文です)。つまり循環しているわけです。とにかくたいへんな離れ技なんです。

とここまで読んで、ハハアこいつボルヘスみたいに架空の本について語っているなと思った方もきっといると思いますが、違うんですよ! ほんとうにそうなんです!

作者についてはほとんどわかりません。国際標準同人誌番号の登録作品リストによれば五冊の既刊があるようです。あとは尾道てのひら怪談のサイトにお名前がみうけられるくらいです。

とにかくたいへんな傑作で、こんなのが何気なく売っているので地方の文学フリマに行くのはやめられません(たとえ当方の新刊は出せなくとも!)。そういえば去年の文学フリマ京都で買った朔太郎ばりの詩集も装丁内容ともにすばらしいものでした。今本がどこかにいってしまいましたが、見つかったら改めてご紹介したいと思います。