断念棄却遮断

「書くことは断念することであり、編集は捨てることであり、出版は閉じ込めること」この言葉がピンとこない人は、ぜひ『足穂拾遺物語』を開いてみてほしい。いかにこの言葉が血肉化されているかがわかるはずだ。

足穂拾遺物語

足穂拾遺物語

これは今まで本にならなかった足穂作品を、気が遠くなるような博捜の果てに、一冊の本にまとめあげたものだ。タイトルにもあるごとく拾遺集である。

にもかかわらず、「とにかくなんでもかんでもぶちこみました~」みたいな肥大感はここにはない。逆にストイックな気迫が、読者に刃を突きつけるように迫ってくる。

無限遠の彼方にある「あるべき本」「存在すべき本」「ぜひとも存在しなければならない本」を幻視し、そのヴィジョンがくっきり浮かびあがればあがるほど、それはどこかで断念され棄却され遮断されねばならない。そうしなければ製品としての書物は現出しえないから。大昔、編者の方々に神保町でばったりお会いして、本書の第七校か第八校目のゲラを見せてもらったことがある。実に妖気のただようゲラであった。

そこまでやった結果としての断念棄却遮断に籠められたエネルギーが、この『足穂拾遺物語』を唯一無二の書としている。聞くところによれば初版は千部未満だったらしいが、十年以上たつのにまだアマゾンに在庫している。インパクトはいまだ消滅していないと思しい。

この本には帯がない。初回出荷時からすでになかった。そこに強烈なメッセージがこめられていることに、わかる人はわかるだろう。

そうそう、実はこの本はご恵贈賜ったのでした。遅ればせながらお礼を申し上げます。