トランスファンタスティック

 

 
定価が三千円を切っているのもかかわらずこの美麗装丁はただごとではない。どこをどう叩けばこの価格でこの造本が実現できるのだろう。版元の屋台骨を揺るがすくらいの大部数を刷っているのだろうか。ともかくも国書が乾坤一擲の大勝負に出たことがマザマザとうかがえる気合の入り方ではある。
 
もちろん中身も外観に負けてはいない。「歩く小説」とでもいうべき唯一無二、sui generisなスタイルが読者をいままで味わったことのない酩酊におとしいれる。

ちょうどゴンブロヴィッチ『トランスアトランティック』の主人公が「すたすた」と歩いていくように、これらの作品はおのずから歩いていくのである。もっとも「すたすた」という速足感のある足音はこれらの作品には似合わない。むしろ無音がふさわしい。
 
そして問題の『ガール・ミーツ・シブサワ』。ラストまで読めば誰でもわかることゆえ、ここに記すのも野暮なことながら、この作品は『高丘親王航海記』のretoldであって、いわば『龍彦親王航海記』とでもいうべきものになっている。なぜか? それを説明するとさすがにネタを割ってしまうので、すべからく各自読了してこの恐るべき超絶技巧に驚愕してほしい、という気がわたしにはするのである。