日本のエイクマン

 
小林信彦『ドリーム・ハウス』が均一本で出ていたのでつい買って一読。

この小説は浅羽通明さんがむかしどこかで絶讃していた記憶がある。でも何の本でどんな風に褒めていたかは、失礼ながらぜんぜん憶えていない。もしかしたら本人の口から直接聞いたのだったか?

でも確かにすごい。これなら不肖わたくしも絶讃するにやぶさかではない。というか、まさかこんな小説とは思わなかった。

これは幽霊屋敷もの、もっと正確にいえば憑かれた家(Haunted House)ものの精妙極まる変奏なのだが、最初はそれがなかなかわからない。ただ読んでいくうちに奇妙なことがいろいろ起こって、スーパーナチュラルな話だということはおぼろにだんだん判明してくる。つまり「手招く美女」とかそのたぐいの話である。

一軒家にひとりで暮らしていた主人公の老母が亡くなり(この死にも不審なところがある)、主人公はその土地に家を建てようとする。だがその前後から不思議なできごとが起こりだす。

主人公の友人DDのにせものが現れて交換殺人をそそのかす。原因不明の火事で借家人が追い出される。老母が生きていたころはなんともなかった崖が大雨でとつぜん崩れる。生命にかかわるような高血圧がとつぜん主人公に発覚する。最後には主人公の恋人まで失踪してしまう。

これらはひとつひとつとりあげれば、(おそらくはニセDDの件をのぞいては)特に非現実的ということはない。偶然いろいろなことが重なったのだと思って思えないことはない。

だが、小説のおしまい近く、全体の4/5くらいのところで(単行本でいうと168ページ目)、スーパーナチュラルとしか思えない出来事がおこる。何かというと、空家なのにひとりでに鍵がかかって主人公が閉じ込められてしまうのだ。

ここにいたって読者はようやくああ家(もしくは土地)に問題があったのだなと悟る仕掛けである。するとあのニセDDとやらは家なり土地なりのエージェント(使い魔)だったのかしらん。


いやもう実にロバート・エイクマンなんですねこれが。もしエイクマンが日本に生まれていたらこんな小説を書いたのではないでしょうか。違うかな。