難解な秘密

乱歩謎解きクロニクル

乱歩謎解きクロニクル

  • 作者:中 相作
  • 発売日: 2018/03/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

中相作さんの『乱歩謎解きクロニクル』がついに出た! その中核となる論考である「涙香、『新青年』、乱歩」は、すでにウェブにアップされていたが、なにぶんにも長文をディスプレイ上で読むのは結構しんどいので、走り読みしただけでそのままになっていた。今回それが本になると知って、喜びいさんで買いに走った次第である。

前に触れた『子不語の夢』も一種の探偵小説だったが、これもまた探偵小説として読めると思う。すくなくとも、「難解な秘密が徐々に解かれていく」のを目の当たりにする興奮は、すぐれた探偵小説で味わえる感覚と同質のものだ。

ここで提出される謎は「乱歩はなぜ『探偵小説四十年』を書いたか」というものだ。「そんなもの謎でもなんでもないじゃないか」と言う人もいるだろう。ところがどっこい、問題はそう単純なものではない。

本書で立ちあがってくるのは、探偵小説への情熱と、探偵小説界の第一人者たらんとする情熱が分かちがたく融合したひとりの偉人の姿である。それから「絵探し」というキーワードを活用して、必ずしも探偵小説と重なりあわない乱歩の嗜好を浮かび上がらせたのも面白い。本書では触れられていないが、乱歩が無名時代に友人らと机の上のどこかに一枚の紙切れを隠す遊びに熱中したというエピソードが関連して思い出される。

また、有名な探偵小説の定義で、なぜ「難解な謎」ではなく、「難解な秘密」という表現が使われたかを巡る考察など目からウロコが落ちた。だが一番の卓見は、『探偵小説四十年』と二十面相ものを相補的なものとして対置したところにあると思う、つまり一方は「探偵小説」を、もう一方は「絵探し」を実現するものとして。

従来必ずしも高く評価されなかった少年ものの位置づけが、ピタッとおさまるべきところにおさまった感がある。