怪作ついに浮上

『SFが読みたい!2017年版』の各社刊行予定のうち、アトリエサードのところを見てびっくり。なんと第三期にヴィシャックの『メデューサ』が入ってるではありませんか。何を隠そう、この作品はかつて何年も前にエディション・プヒプヒで出そうと思っていたものなのです。

この怪作の語り手はウィリアムといって幼くして父を失くした少年。寄宿舎が嫌になって脱走する途中で怪しい男につかまります。男はハクスタブルという紳士に手紙を届けろと少年に命じます。ハクスタブルは少年の身の上を聞き、一緒に船に乗らないかと誘いかけます。ハクスタブルは以前インド洋で海賊に会い、自分の息子を攫われていたのでした。息子を買い戻すための身代金もなんとか調達でき、ちょうどハクスタブルは海賊船にもう一度会うため船出をするところでした。少年が出会った変な男はオバディアと言い、実は海賊の一味でお目付け役だったのです。

いよいよ船が出帆しようというとき、少年は岸辺にあった水車小屋の窓に化け物のようなおぞましい姿をチラッと見ます。

船はブリストルを出ると、喜望峰を回ってインド洋に行くコースをたどりました。そしてオバディアは不思議なことに、港に立ち寄るごとに食べきれないほどの魚を買い込むのでした……
 
……というような感じで序盤から中盤にかけてはスティーブンスン風の海洋冒険奇譚みたいで、このあたりはまあ凄く面白いといってもいいのですが、そのあと海賊船らしき船と遭遇したあたりからどんどん変になっていって、「それじゃ今までの話は何だったんだ!」と叫びたくなるような、斜め上にぶっとんでいく結末になだれこむのであります。コリン・ウィルソンも褒めるに褒められず、苦渋のありありと浮かぶ文章を序文として書いているのですよ。
ということで、そのあまりにも異様なラストシーンのためにさすがのエディション・プヒプヒも二の足を踏んだこの大怪作を天下堂々公刊しようとするアトリエサードには讃嘆と応援を禁じえません。願わくば途中で日和ることなく初志貫徹して無事刊行されんことを。もし万が一アトリエサードのほうが頓挫したら、今度こそは絶対エディション・プヒプヒで出しますよふおふおふおふおふお。



ご存じゴランツ版『メデューサ』


こちらはセンティピード・プレス版『メデューサ』。序文はコリン・ウィルソン。


センティピード・プレス版『メデューサ』の挿絵。見るからに何か大変なことが起こってそうだ。


ヴィシャックのもう一つの長篇"The Haunted Island"。なかなか面白いけれど怪作度では『メデューサ』に及ばない。


"The Haunted Island"の口絵


ヴィシャックの自伝。コリン・ウィルソンは「少年時代の喚起において『快楽主義者マリウス』や『夢の丘』に匹敵する」と評している。


コンラッドの研究書。英文学者のあいだではヴィシャックはむしろこの著作で有名だと思う。