午後の恐龍

アルファ

アルファ


特殊版元として名高い国書刊行会がまたまた面妖な本を出した。拙宅から一番近い大型書店(コーチャンフォー若葉台店)ではアメコミの棚にあったけれども、アメリカ製でもなければ、ふつうの意味のコミックスでも(おそらく)ない。
それでは何であるかというと、ビッグバンから人類誕生直前までの歴史を大判330ページにわたってヴィジュアル化したもの……とでも言えようか。だがそこには時代をはるかに下ったイメージがときおり、いや非常にしばしば、時代錯誤的に顔を出す。隠生代に現われるカラヴァッジョのメデューサ北斎富嶽三十六景マグリットの帽子。一部は巻末に出典として明記されているが、おそらくかなり多くのものがそこから漏れているのではないかと思う(現にメデューサ(p.144下)は記されていない)。

ともあれ滔々と流れる時間の随所に、波間に浮かぶブイみたいに点滅するこうしたオーパーツは、ビッグバン以降百億年を見通す存在、すなわち百億年にわたって連続する意識の存在(ジョイスみたいな意識の流れ)が背後にあることを感じさせる。まるで星新一が「午後の恐竜」で描いた地球のパノラマ視現象のような。
その意味でこの『アルファ』の裏にはオメガがあるような気がしてならない。訳者後記によればこれは三部作の第一巻で、続編の『ベータ』で人類誕生から現代までが、続々編の『ガンマ』では未来が描かれるという。するとこれらオーパーツは『ガンマ』にいたる伏線なのだろうか。



中生代に出現するゴジラ


【5/30付記】この前は書き忘れましたがこの本は値段もすごい。HMV&BOOKSが「大丈夫ですか国書さん」と心配するくらいの良心的価格です。
まったくだー。この紙質と判型と色刷りとページ数で3700円はありえない。