この人を見よ

 
松山俊太郎翁の追悼特集号である「Fukujin No.18」を素天堂・山口雄也氏からいただいた。感謝感激! 

不覚にしてこんな特集号が出ていることさえ知らなかったので有難さも一入。もっとツイッターなんかでバンバン宣伝すればいいのにね。

さっそくいそいそとページをめくる。のっけから康芳夫氏と上杉清文氏の対談が出てきた。「血と薔薇」の創刊に関わり、若き日の松山翁をインドに一年派遣した伝説の〈虚業家〉康氏の話はどこまで本当かわからないけれど、というか八割がたヨタのような気もするけれど、ともかくも抱腹絶倒で読ませる。この人は三島も澁澤も種村も全然認めない人なのだが松山翁だけには一目置いていたようだ。

それから生前翁と親しかった方々による追悼文集、翁自身の講義録三本、追悼鼎談、年譜と続く。誰がメインで編集されたのかは存知あげないけれども、よくできている構成だ。松山俊太郎とはどんな人だったかをコンパクトに知るにはこの特集にまさるものはないと思う。

追悼文を寄稿している面々は、巻末の執筆者略歴を見ると実に多岐の分野で活躍していて、翁の遺した精神的遺産についてしばし思いをいたさざるをえない。むかし山口昌男が『内田魯庵山脈』なる好著を上梓し、ほとんど世に知られない人たちの構成する隠れた知のネットワークをあざやかに浮かび上がらせたが、そのデンで『松山俊太郎山脈』なる本を誰か書けばすごく面白いものになるでしょうねたぶん。

講義録にしても、おそらくは膨大な量の録音が残っているに違いないうちから、素人が読んでも面白く、翁の特徴をよく捉えているものをよくぞピックアップしたものだと感嘆しきり。小学生時代以来の思索の遍歴を語る二〇〇〇年美学校講義、持論の「九割は殺せ」などを滔々と語る二〇〇一年同校講義、人類愛という観点から一神教を排し仏教を語る法華経講義録第一回……。脱線しまくる話題を追っていると翁の声が耳元で聞こえてくるような気がするよ。

この特集を補うものとして、太田出版から翁の精選文集『松山俊太郎 蓮の宇宙』なる本が今年中に出るそうな。なにぶんにもプシルスキーの訳出を延々と遅延させている安藤礼二氏の編なので果たして本当に出るのか少しだけ疑わしいところもあるけれど、とにもかくにも鶴首しつつ気長に待とうではないか。