黒鳥が欲しい

街でもらったティッシュにこんな引換券がついていた。



おうブラックスワン! 「それは、真黒い恥の固まりで、きれぎれな小さな啼き声は、こみあげる恥の記憶に堪えかねて洩らす呻きというより呪文に近い。どのような魔法の鞭が、こんな変身を可能にしたのだろう。いや、あれを見たそのときから、黒鳥と私とは、こともなく入れ変ったのかもしれない」
戦後まもなく上野動物園で黒鳥を見て衝撃を受けた中井英夫は、その後二十年以上をかけて「黒鳥譚」という短篇を纏め上げた。そして翌年、黒鳥と化した中井は、一介の観光客に身をやつしてタスマニアへ旅立った。上の引用はその旅行記「黒鳥の旅」の一節である。

この引換券の黒鳥もまさに「真黒い恥の固まり」で、「黒い白鳥」というにはかなり無理がある。ペンギンというならまだわかるが……。だが、枕に頭を乗せたそのふてぶてしい面構えは、いたいけな青年をたばかって檻に入れたぶらっくすわんを彷彿とさせなくもない。これもまた八面六臂の活躍をみせている本多正一氏のプロデュースによるものだろうか……いやまさかそんなことが……。

それはともかくこの黒鳥が欲しい。だが今さら保険に入るようなオロカ痴愚な真似はしたくない。さてどうしたものだろう。