少年皇帝のこと

 以前勤めていた職場の同僚に、慶応SF研のOBの方がいらした。二人して高木国寿氏の早すぎる死を嘆きあった記憶があるから、もうよほど昔のことだ。

 その方がこんな話をしてくださった。かつて北海道に、クマ牧場にちなんでか、「小熊団」というサークルがあった。(耳で聞いただけなので、表記は違っているかもしれない)。サークル名こそ可愛らしいが、その実態は悪魔崇拝者の集まりで、当時中学生だか高校生だかのヘリオガバルスみたいな少年皇帝を頭に戴いていたという。

 少年皇帝は長ずるに及んで上京し、とある出版社を牛耳って、おびただしい魔導書を世に放った。うち一冊には厳重な封印がほどこされ、「開封の結果いかなる厄災が起きても当方は一切関知しない」なる旨の警告が付されていたという――

 あまりにも荒唐無稽な話なので当時は100%ヨタとして聞き流したが、その後オウム事件など見聞きするにつれ、「いやもしかしたらそういうこともあり得るかもしれない」という気にだんだんなってきた。いまでは半信半疑くらいの気持ちである。

 ――いきなりこんな話をしたのは他でもない、いま見ているゲラにもやはり少年皇帝が出てくるので、昔聞いた話をゆくりなくも思い出したという次第。それにしてもあの少年皇帝はまだ存命なのだろうか。とんでもない計画をいまだ心に秘めているのだろうか。