スクープ浮上


hontoの欧米小説ランキングではイーヴリン・ウォーの『スクープ』がネオサイタマやプラダを着た悪魔を蹴散らして赤丸つき急上昇中。この前の『マルガリータ』といい、これから出る『短篇ベスト10』といい、どうして見計らったように『スウェーデンの騎士』と同じタイミングで強豪を次々と繰り出してくるのか。猛省を促したい(誰の?)。
ところでこの『スクープ』はストーリーの構成上『スウェーデンの騎士』と共通するものがある。それが何かというのは読んでからのお楽しみとして、内容は『木曜日の男』を思わせる政治ファルス。物語の終わり近くなってアレヨアレヨという間に事態が急変するのも『木曜日の男』に似ている。小林信彦の用語で言えば「喜劇的想像力」の駆使――できるだけたくさんギャグを詰め込んでやろうという精神――には敬服せざるをえない。でもこれを風刺というのはどうなのかな。風刺というには毒気や攻撃性が欠けていて、むしろ作者としては単にギャグを連発したかっただけのような気がする。だがそれでいて全体にheavenlyな形而上的雰囲気が漂っているのがとてもよろしい。つまり作者の矛先はジャーナリストとか小国の政治とかの個々の事象よりも人間性そのものに向けられているのだ。だからこそ時代と国を異にするわれわれが読んでも十分に面白いのだ。やはりチェスタトンと同じくカトリックの功徳なのだろうか。
ああそうそう、あとスパイ小説的などんでん返しがあるので、たとえばエリック・アンブラーが好きな人が読んでも楽しめると思います。それからカヌーとか50ポンドの石とかの小道具にきちっと落とし前をつける律儀さは本格ミステリ愛好家の琴線をくすぐるかもしれない。