饅頭拝観記


 古書ドリスに限定一部の『饅頭ヒュアキントス』が入荷したと聞いたので、後学のためさっそく見せてもらいに行った。

 古書ドリスは都営新宿線の森下駅を降りて少し歩いたところにある古書店。店主の方の話によると、もともとは美術書専門のつもりだったそうだ。ところがM.H.氏が近所にお住まいだったため、みるみるうちに幻想文学色が強くなってしまったとのこと。

 するとそのうち、表通りのMエダ楽器店は幻想音楽やムード歌謡しか売らなくなり、Y岡呉服店は幻想衣装しか売らなくなるのだろうか。まったく隅田川の東では何が起こるかわからない。郊外の田舎町に住む身としてはただ恐れおののくのみである。

 でもそれらでさえ、饅頭が本と化すという奇現象にくらべれば何ほどのこともないのかもしれない。その本にしても、とても饅頭が化けているとは思えない素晴らしいものだ。ピシリと決まった表紙カバーレイアウトに堅固な半革装。饅頭とか餡とかが頻出する本文はヴァーノン・リーにはちとふさわしからぬような気もするけれど、化けそこなったタヌキの尻尾のようなものなのだろうか。

 しかしよい刺激になった。わがエディションプヒプヒの造本ももっと気合を入れなくてはいけない。饅頭饅頭(mon dieu mon dieu)と祈りながら帰途につくプヒ氏であった。