三本一本勝負


実は本多氏から「何か書いてみませんか」というお誘いを受けたとき、まっ先に思いついたネタが「泡坂妻夫vsクレイトン・ロースン ミスディレクション三本勝負!」。
つまり両作家の技法を比較検証しようとするものだが、この内容は文藝別冊にしてはちとマニアックすぎるかもしれない、大々的なネタバレは避けられないし……と考えて自主的に没にした。それに拙豚は奇術にもミスディレクションにもあまり詳しくないので、このテーマならもっとうまく書ける人がいるはず、とも思った。

次に思いついたのが、「泡坂妻夫vs木々高太郎 処女懐胎一本勝負!」
この両作家はいずれも処女懐胎を一種の不可能興味として扱った作品を残している。もちろんトリックは全然違って、一方は奇術的アプローチ、もう一方は医学的アプローチなのだが、その扱う手つきが妙に似通っているのだ。一見まったく共通点はなさそうに見える両作家のつながりが、この突破口を通して浮かびあがるかもしれない……と思ったのだが、「どこがどういうふうに似ているのか」を説明するだけでかなりのネタバレになるし、そもそも「『○○○』という作品は処女懐胎テーマ!」と書いただけで、それ自体が凄いネタバレなのだ。書き方がとても難しいのでこれも断念。

そのうち、勝負ばかりしてるのはまずいのではないか、みたいな反省の気持ちが湧いてきた。そこで書いたのが今回載った泡坂エロティシズム論。しかしこれも長い間気になってモヤモヤしていた問題で、今回それを吐き出させてくれた本多氏と編集の方にはたいそう感謝している。