都知事選に寄せて

宴のあと (新潮文庫)

宴のあと (新潮文庫)

世は都知事選のまっただなかで、Twitterリアルタイム検索で「都知事」と打つと、怒涛のようにいろんな情報が流れていく。日頃世間と没交渉の生活を送っている拙豚も、つい感化を受けて三島由紀夫の『宴のあと』を読んでしまった。

福沢かづは高級料亭「雪後庵」を営む五十がらみの女将だが、ある日客として来た老引退政治家の野口雄賢に惚れ、押しかけ女房みたいな形で結婚する。その野口が革新党に口説き落とされたかたちで都知事選に立候補する。野口はもともと英国紳士風の上品洒脱な人柄で、都知事になるなんて山気はなかったのにもかかわらず。

「雪後庵」の上得意は保守系の政治家たちだったため、かづには有形無形の圧力がかかるが、これが見事に裏目に出て、かづは本人よりも気合を入れて張り切りだした。革新党の参謀格、山崎のアドバイスのままに特大の名刺をあつらえ、選挙違反も何のその、料亭経営で蓄えた私財に物をいわせて、札束乱れ飛ぶ一大抗戦へ参戦する。それも野口のあずかり知らぬところで。野口にとってみればこれほど迷惑な話もない。

ここらへんの迫力はすさまじくて、目を覆わしめんばかりのなりふり構わぬ選挙運動の描写が続く。いったん思い立ったら何をやらかすかわからないタイプの女性の怖さがこれでもかとばかりに迫ってくる。三島によれば炭取りが回らなければ小説ではないそうだが、この小説では、女将が特大名刺を作ったあたりから炭取りがブイイイイイイイインとホラーな迫力で回りだす。やはり三島はいい。はっきりいって大好きだ。