野蛮でも狩りでもない

虫けらの群霊

虫けらの群霊


各所で話題になっていた「スタフ王の野蛮な狩り」は、ボヤボヤしているうちに見逃してしまったらしい。うぬれ〜

見てないのに言うのもなんだが、タイトルで謳われている「野蛮な狩り」は、たぶんドイツ語でいうwilde Jagdのことだと思う。wildは「野蛮」、Jagdは「狩り」だから確かに直訳すれば「野蛮な狩り」となるのだが……でも実は、神聖ローマ帝国が神聖でもローマでもないがごとくに、"Wilde Jagd"は野蛮でも狩りでもない。
ご存知パウル・シェーアバルトの中篇に、そのものずばりの"Die Wilde Jagd"というタイトルのものがあって、邦訳では『虫けらの群霊』となっている。正解はこちらの「群霊」のほうで、独和辞典でDie wilde Jagdを引くと「【ゲルマン神話】(嵐の夜に魔王に率いられて狩りをするといわれる)死霊の群れ」という語義が出てくる。





こう書くと拙豚がたいそうな物知りのようですが、むろんそういうわけではありません。ちょっとしたシンクロニシティのおかげなのです。もうすぐ出るはずの『ボリバル侯爵』のなかに、このwilde Jagdが出てくるのですよ。
第八章の終わり近く、屋敷のどこかに潜んでいるはずのボリバル侯爵を龍騎兵隊が探し回る場面で、「……われわれは扉が勢いよく閉まる音と龍騎兵たちの足音を聞いた。足音はwilde Jagdとなって部屋部屋を、廊下を、階段を襲撃していった」という描写があるのです。でもまあこういう文脈なら、「野蛮な狩り」でも意味は通じないこともないかな?



実は英語にもあった(下のコメント参照)