恐ルベキ、戦慄スベキ、


某巨大掲示板には、あらかじめいろいろな情報が書き込まれていた。いわく「轟く咆吼」、いわく「会場崩壊の危機」、いわく「ゴジラがひょいっと戦闘機をはたき落とすようなもの」……もちろん匿名掲示板の常として、相当の誇張がふくまれているには違いない。しかし話半分としてもかなり危険なイベントのようである。火のないところに煙は立たないというではないか。念のため、会場ではなるべく出口近くに座り、何かあったらすぐ避難できるようにしておこうと思った。

しかしこの計画はイベント開始前に早くも蹉跌を見せた。せっかく出口近くに座ったのに、さらに出口近くに座られてしまったのだった。すっかり退路を絶たれた格好である。

イベントがはじまった。最初のうちは和やかに過ぎていった。しかしやがて出演者に向けて、次の一言が発せられた。「罵倒されたい? この場で。」
室内は凍りつき、一つおいて隣の席に座っていた体格のいい方が、あわてて部屋から逃げていった。(この方は最後まで戻ってこなかった。) だがいかんせん、拙豚はすでに逃げ道をふさがれている。

二百人が倉庫に入れられたのに十人しか戻ってこないという、まるで「ヴァテック」の一挿話のようなはなし、ご主人のほかは、一人しかその姿を見たことがない奥さんのはなし、恋愛小説を書くと世界が破滅する人のはなし、復刻ついでに社名まで復刻するはなし。現実のすぐ隣には、なんと不思議な世界が口を開けているものだろう。まるで新アラビア夜話の世界のようでもあった。