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まずいことに現時点でまだダゴベルトを全部読みきっていません。レクラム文庫の字は豆粒みたいに小さいし、おまけに第一次大戦前の本だから、字体は当たり前のように亀の子文字。老眼進行中のこととて、小文字のsとf、大文字のVとBとがぱっと見てどちらかわからない。恥ずかしながら拙豚はLとRが耳では区別できず、ヒアリングするときは前後の意味から判断するのだけれど、まさか視覚でも同じ羽目におちいるとは。若い人は読めるうちに読めるだけ本を読んでおいたほうがいいですよ、とおせっかいながら一言。
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おまけに昨日は知り合いの結婚式のパーティーがあった。いかに無神経な拙豚といえど、来賓がスピーチしている最中に本を読む度胸はない。そういえばこないだ鮎川賞のパーティーがあったらしいけど、ああいう席では、受賞者のあいさつなんかを尻目に新刊のミステリを一心不乱に読んでいる人とかはいるのでしょうか? 鮎川賞だったら普通にあちこちにいそうな気もするけれど……
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それはともかく、今日読んだダゴベルトで膝を打ったのはこんな話。むちゃくちゃ寒い2月のウィーンの早朝、ガチンガチンに凍った道の真ん中で死体が発見される。鈍器で殴られたらしく頭が陥没し、凹んだシルクハットが転がっている。
ところが捜査中に不思議なことが発見される。何かというと、シルクハットにわずかに付着している土が、死体が倒れていた道の土と、成分が正確に一致したのだ。しかし死亡推定時刻はどう見ても道がガチンガチンに凍ったあと。普通に考えればシルクハットに土が付くことはありえない……。(もちろんおしゃれなウィーン子のこととて、土の付いたシルクハットで町を歩くこともありえない)
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どうです、なかなかに洗練された不可能状況の設定ではないでしょうか。こういう謎の提出のしかたが、「ズームドルフ事件」や「ギルバート・マレル卿の絵」などとほぼ同時代になされたということには感嘆を禁じえません。前にも言ったけれど、都筑道夫言うところの、「モダン・ディテクティブ・ストーリー」をちゃんと先取りしているではありませんか。
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真相はもろにネタバレになるので、ずっと下の方に「続きを読む」として書いておきました。どうしても気になる人だけ読んでください。トリック好きの方は、そのあまりの「自然さ」に失望されるかもしれません。しかし、この時代にこの種の不可能状況を作品化するのも凄ければ、それを特にトリックらしいトリックを弄せず解決するのも凄く、あともう一つ言えば、不可能状況の真相が同時に犯人を絞るのっぴきならぬ手がかりになっていることも、なかなかミステリ的に美しいと言えないでしょうか。
凶器に使われた鈍器は、道路工事のときに地面を均すために使う突き棒だった。
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