A los pies de Ud.

 エディション・イレーヌふんどし担ぎシリーズ第三弾はエドガー・ソールタスの「太陽王女」。短いけれども、忘れがたい印象を残す佳品だ。この本はエディション・イレーヌ以前にLIMEHOUSEというところから出ていて、それを(新本で)買ったのもまた今は無き大塚書店だったように思う……無知蒙昧な、なにしろソールタスなんて全然知らなかった*1拙豚にいろいろ変な本を薦めてくれた店主の顔が目に浮かぶ……たぶんいい鴨だと思われていたのだろうが、それにしてもこの店主の推す本には外れはなかった。そうでもなきゃライムハウスなんていかにも胡散臭い名の版元の本など買わないと思う(笑)。

 ところでこの短篇は幻想文学ではおなじみのあるテーマにのっとっている。どんなテーマかは落ちをばらすことになるので書けないけれども、典雅な文体が、そのテーマに心にくく調和している。そして、その文章のなかに、スパイスのように、"A los pies de Ud."というフレーズが最初と最後に出てくる。これは「貴女のお足元に」という意味のスペイン語なのだが、このスペイン語特有のぎごちなさ、こんな短い句のなかに二つも前置詞が入っているという言わば関節の多いギクシャクとした感じが、テーマを引き立たせる上で鮮やかな効果をあげている。これがたとえば滑らかなフランス語(A votre piedとか言うのかな)なんかだったら台無しになってしまうだろう。

*1:そのすぐ後に、やはり今はなき早稲田進省堂店主の大国さんのところに行って聞いてみたらやはりソールタスを知っておられた! のみならず原書がちゃんと棚に置いてあった。東京の古書店の奥深さを知った一瞬であった。