バカホラーの週末

独逸怪奇小説集成

独逸怪奇小説集成

  • 発売日: 2001/09/01
  • メディア: 単行本

土日はバカホラーばかり読んで頭が痛くなりました。でもなんとかして荒俣先生編の伝説的アンソロジー『慄然の書』のドイツ版を作ってみたい。作ってみせるぞ。

昨日読んだカール・ハンス・シュトローブルの「マエストロ・ジェリコ」というのはこんな話。

マエストロ・ジェリコは天才的なオルガン奏者だったが、どういうわけか、とある田舎町の教会以外の場所ではオルガンを弾かない。そのため、その町は世界中の音楽愛好家たちのメッカとなっていた。この教会のすぐ近くに墓地があるのだが、最近頻々と墓があばかれて住民は恐怖をつのらせていた。
そんなある日、わたし(語り手)の病弱な妻が戯れにピアノを弾いていると、いきなりテラスからマエストロ・ジェリコが入ってきた。そして妻のピアノを褒めたたえ、あなたは音楽の心を持っていると言う。その熱のこもった異様な口調に困惑する妻。わたしは話題を変えようと、マエストロに、いい機会だからあなたのピアノを聞かせてくださいと所望する。マエストロは「わたしはピアニストではなくオルガニストだから」と渋っていたが、とうとう断りきれなくなってピアノに向かった。ところがその演奏は驚くほど拙劣で……ここまでの筋書きから、都筑道夫の「阿蘭陀すてれん」を連想された方がいらっしゃたら、いい勘をしていると思います。しかしこの短篇では、余韻豊かな「阿蘭陀すてれん」とは正反対の、想像を絶するバカバカしい落ちが読者を待っているのであります。

このシュトローブルという人はなんというか実に油断のならぬ人で、根はホラー作家なのかギャグ作家なのかよく分からないところがあります。鷗外も訳している「刺絡」という短篇も、その見事な語り口によって第一級の怪談になっていますが、アイデアの核はやはり馬鹿馬鹿しいというしかないのでは……ないでしょうか。「刺絡」を含むシュトロープルの短篇は国書刊行会の『独逸怪奇小説集成』で何作か読めます。他には「メカニズムの勝利」がこの人のギャグセンスをうかがわせる怪作で、種村季弘が「ドイツ幻想小説傑作集」に採用していました。あと四、五年前に某社に渡したこの人のもう一つ別の短篇が首尾よく某アンソロジーに採用されれば、「傑作だけれどもバカ」の好見本がお目にかけられるのですが……

シュトローブルを読むときのBGMはJaculaの「Tardo Pede In Magiam Versus (邦題:サバトの宴)」がおすすめ。ヤクラは拙豚の聞いた範囲ではイタリアでもっとも趣味の悪いプログレバンド。オルガンの使い方の大仰さには誰もが吐き気と失笑を禁じえないでしょう。(ちなみに、神保町の羊頭書房に行くと、ときどきこの手の音楽がかかっていることがあります。店主の趣味がしのばれます)



Tardo Pede in Magiam Versus - Jacula (1972) Full album.

そうそう、土曜は石川美南さんの歌集を買うために、西荻の音羽館に行ってきました。あたかも秘密出版の本であるかのように店の隅の目立たないところに置いてありました(入って右隅の膝くらいの高さの平台の上)。何かのいやがらせなのでしょうか。しかも二冊一緒に積んであるので、知らない人は一冊しか出てないと思うのでは。