メイ・シンクレアはただものではない

怪談の悦び (創元推理文庫 (555-01))

怪談の悦び (創元推理文庫 (555-01))


旅さきの古本屋で『怪談の悦び』を見つけたのでつい買ってしまった。そしてあらためてメイ・シンクレア「天国」の怪作ぶりを堪能。「彼ら」や「ゼリューシャ」も絶品ではあるけれども、この本のなかでは「天国」の天真爛漫な、それこそheavenlyなユーモアが拙豚は一等好きだ。まことにメイ・シンクレアはただものではありません。でもこの人の宗教観とかはどうなっているんだろう。単なる心霊主義者でないことは確実であるけれど。

この作はP.K.ディックの遥かな先がけでもある点が凄くて、というのはつまり、「天国」にはディックのある長編との類似を思わせるものがあるのだ。もろにネタバレになるのでその長編の名は書けないが、読めば誰にも分かるはず。

それにしても大瀧先生なら、禍々しくも神秘な美女の名"Xelucha"を、何と表記なさるであろうか。ゼラチャ? ズルチャ? セルッハ? それともクセーリュヒャ? いつかお会いするときがあったら聞いてみようかとも思う。賭けてもいいが、「ゼリューシャ」ではないだろう。