裏Lコレクション続報


「エフ氏」完成。冒頭の部分をちょっとご紹介。

 書かなかった本について語るのは難しい。なにもそうした本が多すぎるからではなく、その本がわたしにとって最も重要だからでもない。なぜ難しいのかというと、書かなかった本にはそれ固有の物語があるからだ。わたしはその物語をあるがままに語りたいと思う。だが、たとえ「作り話をする欲望」に打ち勝てたとしても、それについて話すうちに、プロットを改善したいという誘惑にかられる。そうでなくとも些細なことで変わりかねないプロットだというのに。かくてそれは、プロテウスのように時々刻々と変身するが、そのあらゆる段階が書きとめられはしないアイデアの、雲をつかむような記録となり果てる。このようなアイデアは、考えたあげくに出てくるものではない。それはゆるやかに結びついたいくつかの場面としてわたしに迫ってくる。しかし場面と場面の間には大きな間隙がある。そのあらましを語ると、一人の男がいて、外国の町に短期間滞在している。ある日にわか雨にあって、手ごろな建物に避難する。街の往来のイメージと雨にうつる大都会の光は、なぜかははっきりは言えないものの、背景として重要だ。男が入ったところはシティの中心にある巨大な高層ビルで


では二日目東 ロ24bでお会いしましょう。