二十面相は逃げたか?

 乱歩は私が小学校上級のころ、はじめて「少年倶楽部」に「怪人二十面相」などの子供ものを連載した。三作くらいつづいた。これがすこぶるおもしろく、十一歳年上の兄までが読み、
「今月はどうなった? 二十面相はやっぱり逃げたか」
などと言ったりした。(どくとるマンボウ追想記)


「これはもう毎号「小説すばる」を買うしかない」と前回の日記で言った言葉に嘘はない。世の中には連載を追って読むことによって最高の面白さを発揮する小説というものがある。上の引用にあげた『怪人二十面相』なんてのはその最たるものだろう。発売日を待ち構えるようにして雑誌を買い、「アア二十面相はやっぱり逃げたか!」と切歯扼腕したり喝采を叫んでいたりした当時の読者のことを思うと羨望を禁じえない。
少し前の『琉璃玉の耳輪』もやはりそうで、これはなんとしても連載で読みたかった。毎月毎月ハラハラドキドキしたかったと今にして思う。まあしかしそういうのは月間が限度で、『綺想宮』みたいに隔月刊なんかだと、次の号が出る前にストーリーを忘れてしまうので意味がないのだが……。
ま、なんにせよ、「連載で読む」というのは同時代の読者のみに許された唯一無二の特権だ。あにむざむざと、このまたとない特権を放棄するべけんや。ということで次回の「ばらばら死体の夜」が待ち遠しい。ものすごい傑作になりそうな予感がする。