帰ってきた桜庭一樹。

小説すばる 2010年 10月号 [雑誌]

小説すばる 2010年 10月号 [雑誌]


桜庭一樹がミステリの世界に帰ってきた!

男は、資産家に婿入りした翻訳家。女は、古本屋の2階に間借りする謎多き美人。待望の新連載は、本の町、神保町を舞台に繰り広げられる一大サスペンス!


連載のはじめに掲げられたこのリードにいちおう嘘はない。しかし読者が読むものは、「謎多き美人」とか「神保町」とかいう言葉から思い浮かべるものとはひどくかけはなれた退廃的にして禍々しい物語である。あまり世紀末的ではなかった20世紀末を一挙に取り戻しまことの世紀末に塗りかえようとでもいうかのような、あるいは、神保町という街を、アーサー・マッケンのロンドン、あるいはジャン・ロランのパリとドロドロに融合させてやろうとでもいうような、すさまじく濛濛とした妖気が連載第一回からたちこめている。こういう発端であるからには、少なくともこの物語が「一大サスペンス」なる陳腐きわまる形容におさまることは絶対にないだろう。

「ばらばら死体の夜」というタイトルのとおりに、Prologue IIで早くもバラバラ死体が製造されている。しかし『砂糖菓子〜』と違ってバラバラにされるのは少女のほうではない。男だ。作家的発展? リベンジマッチ? これはもう毎号「小説すばる」を買うしかない。