怪談実話


今宵、さる会合にて黒衣の人がこんな話を語ってくれた。
七十年代半ばのこと、都会を離れたあるところで本が一冊、人目をはばかるように出版された。部数はわずかに**部。装訂は鮮血をおもわせる真紅で、どういうわけだか天も赤く塗ってある。
それだけならばなんということはないが、その本は、どれだけ湿気の多い部屋に置いても、三十年以上にわたって黴ひとつ生えないという。
黴にさえ忌み嫌われるとは、いったいどんな悪業を重ねた本なのか。想像するだに恐ろしいではないか。
聞くところによればその本は小説集で、中の一篇は何もかも滅びる話だという。