謎の文庫化

 SR Monthly No.368、2010年新春号に前東京創元社社長戸川安宣氏のロングインタビューが掲載されている。全体のトーンは「最近は本が売れなくなって……」という、やや暗いものだけれど、巧まざるユーモアが随所に溢れる楽しい読み物である。

 たとえば創元推理文庫がSFをはじめた頃の話として、

戦前から戦後にかけて、出版界ではSFとウェスタン、それにシムノンは売れないという定説がありました。

 ジャンル名とまったく対等に作家名が出るので笑ってしまう。明らかにネガティブな評価なのだけれど、ここまで言われればもう一種の勲章でしょう。でもシムノンがこれ聞いたら、「勝手に定説を作るな!」と激怒すると思う。

 ミステリは売れなくなったと言われているけれど、東野圭吾や宮部みゆきは売れてるじゃないですかという説に対して、そういう作家の読者には、自分がミステリを読んでいる意識はないと戸川氏は言い、

だから、なんで宮部さんや東野さんの小説ではこんなに人が死ぬんだろう、って不思議な顔をされるそうです(笑)。

 
 なるほど、言われてみればそのとおり! ふだん当たり前だと思っていることでも、改めて考えてみると不思議でたまらないことは結構あるものです。なぜ○○さんの秘書は猫のぬいぐるみなんだろうとか……。

 最後に一番笑ったくだり。もっともこの部分のおかしさは戸川氏の話術にささえられているところが大なので、かいつまんで紹介してもたぶんあんまり面白くないと思う。かといって、長々と引用すると何かの権利を侵害してしまいそうで怖い。まあそれはともかく、要するに、かって東京創元社から出た某単行本が文庫になっていないという話で、

この分では文庫版はいつになることか。

 ぶ、文庫版出す気があったんだ!