河童をこえて狐のふもとまで

 
「お」の部がはじまってまもなく、鸚鵡石を越えたあたりで、「大あわび」「大蚊柱」「大亀」「大鯉」「大鳥」「大鳥人を掴む」「大入道」「大猫の怪」「大鼠」「大むかで」「大山伏」とやたらに大きなものが続く。

大亀はわたしが昔住んでいたところのすぐ近くにいたらしい。大小二匹いて大きい方は二十畳敷くらい。昔の畳であるからして、この亀ひょっとしたら拙宅より大きいかもしれぬ。それから大鼠は猫よりでかく、猫に飛びかかって食い殺したりするそうだ。

なかでもすごいのは大鳥で、浪人侍を掴んで二時あまりのうちに加賀の国から箱根湯本まで運んでいったそうな。ということはほとんど日本縦断? これは千夜一夜よりスケールが大きいかもしれない。

ところで、むかし吉田健一が消暑の具に読みふけったのは海外奇談だったという。黒沼健が盛んに書いていたああいうたぐいのものである。ある洋書に出てきた、大海蛇がうねりながら水に潜りボートの底にごつんごつんとあたる場面では大いに感興を催したと何かの随筆に書いていた*1。 その成果(?)が後に怪著「謎の怪物・謎の動物」として結実するわけだが、今にして思えば何もアマゾン流域とかコンゴ秘境とかの本を読む必要はなかったのかもしれない。

*1:引用したいと思ったがどの本に書いてあったか思い出せない。知っている方はどうぞご教示ください