『架空の伝記』に収録されなかった架空伝記もの「デミウルゴスのモルフィエル」と最晩年の短篇「ユートピアの対話」を翻訳してみたいと思う。しかし語学力の貧しさはいかんともしがたく意味のとれない文がある。こんなときは他国語訳をちょっとのぞいてみたくなるものだ。故生田耕作先生は、河出書房の「人間の文学」シリーズでバタイユの『眼球譚』を訳すさいフランス語原文のテキストが入手できず、進駐軍向け英訳本(いわゆるKeimeisha Edition)を翻訳底本として用いたという。「生田耕作コレクション」1のあとがきに本人がそう書いていた。今回は僭越ながら生田先生の顰にならおう。
ネットで検索すると、"La mano gloriosa y otros cuentos"というメキシコで出た本にどちらの短篇も入っているようだ。スペイン語というのはたいそう困るが、何もないよりましかもしれない。ちなみにスペイン語圏ではシュオブはけっこう人気があるらしく、エッセイのたぐいも含めてかなりの翻訳がある。この本に収録されている作品は次のとおり(かっこ内は原題)。面白そうなタイトルばかりだが、邦訳されているのは一篇もないと思う。
- Las bodas del Tíber (Les Noces du Tibre)
- Rampsinit (Rampsinit)
- Vida de Morfiel, demiurgo (Vie de Morphiel démiurge)
- La mano gloriosa (La Main de gloire)
- Barbanegra (Barbe-Noir)
- Diálogos utópicos (Dialogues d'utopie)
- Manoslimpias (Blanches-Mains)
この本をなんとか買えないかとやはりネットをあちこち探すと、マドリッドにあるタラフマラ書店というところで売っていた。
タラフマラ書店! こんな名前の本屋に注文して大丈夫なのか。無事に本はとどくのだろうか。偏見かもしれないが、タラフマラといえば書店員がこぞって仕事そっちのけでペヨーテ飲みまくっているイメージしか浮かばない。いやしかしいい名前ですね。こんな名の書店なら代金を送ったっきり梨のつぶてでも悔いはない、かもしれない。種村季弘もどこかで「カモられる楽しみ」について書いていたではないか。ということでただいま注文完了。