アララテ再説 

 
「アララテのアプルビイ」を一読して、どうもこれに似たものを過去にも読んだことがあるなあ……と何かひっかかっているような気持ちだったが、今日ようやくその正体がはっきりしたよ。乱歩の「ぺてん師と空気男」だった。

この「ぺてん師と空気男」は、乱歩の作品系列から言えば大いなる謎である。どうしてこんな突拍子もないものを書こうという気になったのだろう? 小林信彦の回想によると、アレン・スミスの「いたずらの天才」その他のプラクティカル・ジョークの本を机に山ほど積み上げて、「これで一冊書こうと思うんだよ」と言ったとのことだが、韜晦の名人である乱歩のことだから、この発言をそのまま真に受けることはできない。

この作品の影にはマイケル・イネスがあるのではないか? いわばイネス菌に感染した結果、乱歩は「ぺてん師と空気男」なる怪作を書いてしまったのではないか、とチラと思い浮かんだが、もとよりこの説の検証には多くの傍証が必要だ。