いまどきの魔術 〜Recent Sorceries〜

猫路地

猫路地

  • 日本出版社
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「かねて猫好きで知られる作家の皆さんに、既成の辞書には存在しない架空の猫熟語を自由に思い浮かべていただき、それにちなんだ短い物語を書き下ろしてもらったら如何だろう」(本書解説より)――これだけの縛りをもとに集まった作品は、しかし期せずしてブラックウッド・トリビュート集になっている。トリビュートといえば少し前に「虚無」トリビュート*1が出たが、本書はそれに負けず劣らず嬉しい贈り物だ。

表紙と裏表紙のはざまの世界は本来魔術のしろしめす領域のはずだが、残念ながら世に溢れる多くの本では、いずこからか現実からの隙間風が吹いてくる。しかし本書はその数少ない例外で、どの作品も肩の力がうまく抜けていて、それでいながら文章が弛緩していないのがみごとだ。

そして、そうした個々の作家の力量もさることながら、やはり決定的なのは猫というテーマであろう。あえて理屈を立てて考えてみると、人の家の塀だろうが路地だろうがあらゆるところを闊歩しながら、しかも毅然とした個をもつ猫は、内界と外界との懸隔を融解させる絶好の触媒となる。猫路地、猫火花、猫**……という具合に「架空の猫熟語」を作ることは、とりもなおさず、いろいろなものに猫という溶解剤を降りかけることに他ならない。その結果は、はてさていかになり行くか。その答が本書ともいえるだろう。

僭越ながら本書の一つの読み方をご提案したい。収録された各短篇の扉には作者名とタイトルが(当然のことながら)付されているが、それをなるべく見ないようにそのページだけ飛ばして――つまり個々の作品の作者をあえて知らぬままに、最初から順番に、一篇また一篇と、架空の語り部に導かれるように読み続けること――そうすれば異界への参入がよりたやすく行えると思うのだがいかがなものだろうか。