- 作者: テッド・チャン,公手成幸,浅倉久志,古沢嘉通,嶋田洋一
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/09/30
- メディア: 文庫
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「デス博士の島その他の物語 (未来の文学)」の「その他の物語」とは何を意味するのだろう。これは未だによく分からない。以下は文字通りのメモにすぎない。
- まず押さえておくべき事項が三点。(a)「その他の物語」の物語は複数形(stories)である。だから少なくとも二つの「他の物語」が想定されている。(b)「デス博士の島」だけでは、短篇自体のタイトルとしてはふさわしくない(タッキーの持っている本のタイトルとしてはふさわしいけれども)。これはセトラーズ島を舞台とする話であるから。(c)作者の前書きを信ずるとすれば「デス博士〜」の執筆時点では、まだ「アイランド博士の死」も「死の島の博士」も構想されていなかった。だから「その他の物語」がこれら二短篇を意味するとは考え難い。
- そこから考え方は二通りに分かれる。「その他の物語」なるものが、短篇「デス博士の島その他の物語」の中に存在していると仮定するか、それともしていないと仮定するか。「アメリカの七夜」では七夜目は存在しなかった(というよりむしろ、作品内で描写されなかった)。「その他の物語」も、これと同じく「あえて描写されなかった物語(群)」である可能性はある。
- 存在しない場合。最も自然なのは、ラストシーンと結びつけて、タッキーの今後の人生が織りなす物語(二人称で言えば「あなたの人生の物語」)、あるいは、今後の人生で出会う本の中の物語を「その他の物語」と考えることであろう。つまり「デス博士の島」はタッキーにとって最初の物語であったが、それは必ずしも「最後の物語」ではない。他にもいろいろ物語はあるのだから、何も「デス博士の島」を最後まで読んでしまったからといって悲しむことはないではないか、という含みを持たせたタイトルであるとする解釈である。
- 作品内に存在している場合、どういうレベルで存在しているか? まずタッキーの持っている本自体が「デス博士の島その他の物語」であったのかもしれない。つまりその本は短編集で、タッキーはそのうちの一つの短篇の途中までを読んだのかもしれない。つまりこれは、「言及されざる部分」という意味で、「その他の物語」が「アメリカの七夜」の「七夜」とまったく同じ意味を持つとする考え方だ。
- 別の考え方として、タッキーの本はあくまで「デス博士の島」それだけであり、「その他の物語」とは、本の外の世界で起こる色々な現実の出来事(母の男遊び、仮装パーティー、覚醒剤中毒その他)を指すとも考えられる。このように、現実の事件のもろもろを「その他の(どうでもいい)物語」と呼び、いわば斬って捨てることは、作者(あるいは主人公)による現実への侮蔑が表明されていると見るべきだろう。言い換えれば、現実世界を超えたところにある物語世界の特権的ポジションが「デス博士の島その他の物語」というタイトルで表現されていると見るわけである。この場合表題を「(デス博士の島)および(その他の物語)」ではなく「(デス博士およびその他の物語)の島」と読むほうがいいかもしれない。
- あるいはラストと結びつけて、「その他の物語」は現実を指すのではなく、タッキーが本を読み返すたびにその都度現れてくる物語と考えることも一応は可能だろう。
- その他にも考えたがくだらないのでここには書かない。話は唐突に変わるがてる王子おめでとう!