肝と金之助

眼鏡文人の一号が出た。小栗虫太郎の特集である。ノリハゼクマ編というから、法水・支倉・熊城の3P組んずほぐれつなんかだったらどうしようと恐る恐るページをめくったところ、本格的な研究書だったのでびっくりした。ちょっとシャレード別冊の作家特集を思わせる。

かゆいところに手が届く(?)マニアックな突っ込みが楽しい。中でも興味深いのは、支倉検事の名前問題である。この本によると、虫太郎作品には一度も支倉の名が明記されていないという(これをチェックするだけでも既にして大変な作業と思う)。しかし、現代教養文庫版「黒死館殺人事件」の登場人物一覧には「支倉肝」とフルネームが載っている。いったい何と読むのだろう……「眼鏡文人」では「はぜくらかなめ」を推奨しているのだが(個人的には「はぜくらきも」を推したい)。

つまりこれは乱歩「孤島の鬼」における「箕浦金之助」と同じ問題なのである。箕浦の場合も、乱歩の本文にはフルネームは登場せず、創元推理文庫版の登場人物表だけに「金之助」の名がでてくるのである。そして「肝」にしても「金之助」にしても、雑誌初出に遡らなければ謎は解けない。発行人のブログに書き込まれたコメントによると、「黒死館」初出である新青年の登場人物表に「支倉肝」と書いてあるそうな。