ロナルド・ファーバンク見参!

オデット

オデット

柳瀬尚紀の素晴らしい翻訳でロナルド・ファーバンク(=「人工皇女」を書いた人)が出た! これを快挙と言わずして何と言おう。しかも全ページに山本容子のカラーイラストがついている。
 
これはファーバンク十八歳のとき、フランス語の習得のためトゥールの古城に滞在しつつ、ボードレール、フローベール、マラルメなどなどの著作に親しんでいた時代に書かれた短編であり、別の短編”A Study in Temparament”とともに1905年に出版された。後に改訂版が"Odette: A Fairy Tale for Weary People*1 "というタイトルで1916年に単独出版されているが、この訳本がどちらを底本にしているかは不明だ。
 
それはともかく、つまりこれはファーバンクの最初期の作品のうちの一つで、何なら習作と言っていいかもしれない。作品の舞台にはその頃彼のいたトゥールの風景が美しく取り入れられている。ある批評家はこの「オデット」について、「メーテルリンクの文体でフランシス・ジャムのパステーシュを試みたもの」と言っているそうだ。エドマンド・ウィルソンは更に辛辣に、("Odette") exhaled a sickly perfume of the nineties などとほざいているが、まあ言いたい奴には言わせておけばよろしい。確かに話の筋は一見ジャム風ではあるが、効果的に次々に切り替わる場面転換とか、わずかな描写で各登場人物を生き生きと浮き彫りにする知的な文章は、後の怪人ファーバンクがすでに顔を覗かせているではないか。
 

*1:このすさまじくダサい副題はもちろんファーバンクがつけたものではない。出版者のグラント・リチャーズの発案によるものである