エイクマンの未発表短編

今日届いたWormwood最新号の巻頭は、ロバート・エイクマンの未発表短編The Fully-Conducted Tourだ。やでうでしや。
物語は一人称で書かれ、エッセイとも小説ともつかないこんなノンシャランな調子ではじまる。「わたしはこれまでとてもたくさんの奇妙な出来事を書いてきた――その中には出版されたものさえある。だから、いったいそのうちのどれだけが本当に起こったことなんですかといつも人に聞かれるのも無理はない……」 そして話は、作中の「私」が妻と連れ立って行った、イタリアのある地方の観光旅行に移っていく。ある日、気分のすぐれない妻をホテルに残し、「私」は一人であるツアーの申し込み窓口に立つ。ところが係員の素振りがどうも変で、しきりに「私」に別の日あるいは別のツアーにしろとすすめる。そこを強行してツアーに参加した「私」は、一行とともに女性コンダクターに率いられてある大邸宅の門をくぐる。そこでコンダクターが言うには、ここは個人の邸宅だから、中に入るには履物を脱いでください。もしそれが嫌な方は、外のベンチに座って待っていてくださいと。
 ツアーの一行は一人残らず履物を脱ぎ始めた。「私」もそれに倣おうとしたが、女性コンダクターが意味ありげな表情でこちらを見ているのに気付く。その表情は、なんだか「あなたはここにお残りください」と語っているようであった……。
 解説者のGlen Calviero氏はデ・ラ・メアを引き合いに出しているが、それも肯ける佳篇です。ただデ・ラ・メアなら係員の最後のセリフは省略したと思う。エイクマンはデ・ラ・メアより半歩だけ(あるいは四分の一歩だけ)踏み込んで語る作家だ。個人的には宮沢賢治の某作品とか恩田陸さんの某作品を連想しました。