神西清効果

桜庭一樹「辻斬りのように」の冒頭に近い部分に、前後の文脈から離れて突然謎のような一行が挿入されている。

――そのひとをわたしは自分の力でみつけた。(「野生時代」10月号 p.87)

あるいは推敲中に関係ない一行が紛れ込んだのかもしれない。そうして、本来あるべきではなかった位置に偶然置かれた文章が、たとえば新校訂全集前の「銀河鉄道の夜」みたいな神秘的な味を醸し出しているのかもしれない。しかしこの場合はたぶんそうではないだろう。
中盤で出てくる「特定のだれかのことなど、けして考えるな(p.92)」というフレーズや、ラストの一ページで展開される負けず劣らず謎めいたシーンと考え合わせてみるに、「――そのひとをわたしは自分の力でみつけた。」はやはり、あの場所に置かれるべくして置かれた一文の気がする。
「七竈の匂いが」という(見かけ上の)脇役の何気ない一言が、発言者の意図しない啓示となって主人公に響き、主人公を行動に促すというパターンは、『少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)』でも見られた(「も、殺しちゃえば?」)
これに似たものをずいぶん前に読んだことがある。神西清の初期短編群だ。(この続きは神西再読後にまた。何しろ本が見つからないので……)